構造

構造

以下では基本的にモダンピアノの構造を解説する。
モダンピアノの基本的な構造は、鍵盤、アクション(ハンマーとダンパー(4))、弦(上図-16)、響板(15)、ブリッジ(12)、フレーム(1・14)、ケース、蓋(2・5)、ペダル(11)などからなる。
打鍵に連動してダンパーがあがると共にハンマーが弦を叩いて振動させ、この振動は弦振動の端の一つであるブリッジ(駒)から響板に伝わり拡大される。
またペダルによって全てのダンパーがあげられていると、打弦されていない他の弦も共鳴し、ピアノ独特の響きを作り出す。
鍵から手を離すとダンパーがおり、振動が止められる。
フレームおよびそれを支える木製(一部にはアクリル製のものもある)の胴体、足、弦、アクション機構などによりピアノの重量はほかの楽器に比べて桁違いに重く、アップライト・ピアノで200kg〜300kg、グランド・ピアノでは300kg以上、コンサート・グランドでは500kgを超えることも珍しくない。
このため、ごく少数のこだわりを持つ名演奏家を除いてコンサートに自分のピアノを持参することはなく、会場にある楽器を使う。

鍵盤

鍵盤

標準的モダンピアノは黒鍵36、白鍵52の計88鍵を備える(A0からC8に及ぶ7オクターヴと短3度)。
鍵そのものは、ほとんどの場合木でできており、表面にかつては白鍵は象牙を、黒鍵は黒檀を貼っていることが多かったが、現在では合成樹脂製つき板を使ったものが多い。
また、近年では、象牙や黒檀の質感を人工的に再現した新素材(人工象牙、人工黒檀)などが採用されたものもある。
古いピアノには85鍵(A0からA7の7オクターヴ)のものも多く、また88鍵を越える楽器も存在する。
ベーゼンドルファーの一部のモデルは低音部をF0まで拡張しており、C0まで拡大して8オクターヴの音域を持つ1モデルも存在する。
このような拡張部分は、不要時には小さな蓋で覆えるようになっているものや、拡張部分は白鍵と黒鍵の色を入れ替えて、奏者の混乱を防ぐ措置がとられているものがある。
これよりも最近に、オーストラリアのメーカースチュアート・アンド・サンズ社でも音域を拡張した楽器を作っている。
このモデルでは、低音がF0まで、高音がF8まで拡張され8オクターヴの音域を持つ。
鍵盤の見た目はほかと変わらない。
拡張音域は、主により豊かな共鳴を得るために追加されたもので、これらの音を使うように作曲されている楽曲は僅かである。
逆に、流しのピアニストたちが使う、65鍵の小さなスタジオ・アップライトもある。
「ギグ」ピアノと呼ばれるこのタイプのピアノは、相対的に重量が軽く、2人で持ち運び可能であるが、響板部分はスピネット・ピアノやコンソール・ピアノよりも大きく、力強い低音部の響きを有する。

アクション

鍵を押し下げるとハンマーが連動して弦を叩く仕組みをアクションという。
アクション機構は伝統的に木材で作られてきたが、近年はごく一部のメーカーで炭素繊維を含ませたABS樹脂なども使われる。
鍵を押し下げた時に、ハンマーが弦の手前 203ミリの位置にくると、ハンマーが鍵の動きから解放される。
この動きを「レット・オフ」といい、このような機構をエスケープメントと呼ぶ。
打撃による発音では発音体との接触時間を短くすることが重要な要素であるが、これを鍵盤の動きにかかわらず一定の条件で行うための仕組みであり、このエスケープメント・アクションを発明したことが今日のピアノの地位を築く出発点であった。
弦とハンマーの間の距離は203 ミリの範囲内のいずれでも良いわけではなく、全鍵において可能な限り揃えられる必要があり、これをレット・オフ調整という。
一部のメーカでは最高音部のレット・オフを 1ミリまで近づける方が充分な音色を得られることがある。
この機構のため、鍵を押し下げるときに指に感じられる重さは、押し下げきる直前で軽くなる。
鍵が軽くなってから鍵が深く沈むと、鍵が重く感じられる。
アクションで次に重要な課題となったのは、エスケープした部品(ジャック)を如何に素早くハンマーの下に戻して次の打弦に備えるかであり、様々な方式のアクションが発明、改良されることになった。
歴史的には大きく分けてウィーン式アクションとイギリス式アクションが存在した。
モダンピアノのアクションは基本的にイギリス式アクションの系列である。

モダンピアノでは、アップライト・ピアノはジャックのみがエスケープするシングル・エスケープメント・アクションを用いているが、グランド・ピアノはジャックとレペティションレバーがエスケープするダブル・エスケープメント・アクション(原型はエラールが開発)を用いている。
ダブル・エスケープメント・アクションにはレペティションレバーという部品があり、これによって素早い連打を可能としている。
これは、打弦後、鍵を押し下げる力をわずかに緩めた瞬間に、レット・オフの時にジャックとともに外れて(エスケープして)いたレペティションレバーがハンマーを持ち上げて維持し、ジャックの戻りをたやすくする機構である。
これにより鍵の深さの半分まで戻すことで次の打弦が可能になる。

一方、ハンマーが弦を横から叩くアップライト・ピアノでは、シングル・エスケープメント・アクションのために鍵が完全に戻らなければ次の打鍵はできない。
ハンマーが戻るのを助けるバットスプリングと呼ばれるスプリングが付いているために、この力によってハンマーが戻りやすくなっているようにとらえられがちであるが、スプリングを外しても連打の性能には大きな変化はない。
正しくアクション調整が行われたグランド・ピアノのアクションでは、毎秒21回程度の、アップライト・ピアノでは17回程度の連打が可能である。
レペティションレバーの有無という構造の違いが、グランド・ピアノとアップライト・ピアノのタッチ、表現力の差に大きく影響を及ぼしている。
グランド・ピアノのダブル・エスケープメント・アクションは、シュワンダー式アクションが主流だったが、1970年代以降スタインウェイ式アクションを採用するメーカが多くなった。
アクションにおいてハンマーとともに重要なのが、ダンパーと呼ばれる消音装置である。
打鍵時以外はこれが弦に密着し、その振動を常に抑えている。
鍵を叩くと、ハンマーがハンマーと弦の間(打弦距離)の1/3 ないし 1/2 進んだときにこのダンパーが弦から離れ始めるように調整される。
これにより弦の自由な振動を可能とする。
鍵を抑えている間中ダンパーは離れているが、鍵を離すと同時にダンパーが弦に戻り、弦の振動を止め、音が消える。
ただし、ピアノの最高音部は、弦の鳴る時間が短いため、ダンパーを備えない。
弦に直接触れるハンマーヘッドは、一時樹脂製のものが用いられたこともあったが、今ではほぼ例外なく羊毛のフェルトでできている。
ハンマーヘッドは長時間演奏されれば変形するが、音色に大きく影響するものなので、音程の調律ほど頻繁ではないが定期的に調整することが必要となる。
具体的には、調律師など専門の技術者が「ファイラー」と呼ばれる表面にサンドペーパー(紙または布製#800#800程度を数種類)を貼ったものでハンマーフェルトの表面を削り整形したり(ファイリング)、「ピッカー」と呼ばれる柄に針を数本取り付けた工具でハンマーフェルトを繰り返し刺して音色を整える整音(「ボイシング」または「ピッカーリング」とも呼ばれる)を行う。
技術が進歩した近年では、電気ピアノのように同じような発音原理を持ちながら電気的に増幅するものや、電子的に発音するピアノに類する楽器も登場している。

アクション

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