弦

現在の標準的ピアノは88の音高を持つが、1音あたりの弦の数は音高により異なり、最低音域では1本、低音域では2本、中音域以上では3本張られ、弦の総数は200本を超える。
各音の弦は複数弦でも単一のハンマーで同時に叩かれるが、グランド・ピアノの弱音ペダルを踏むとハンマーを含めた鍵盤の機構すべてが物理的に横方向にずれ、中音域以上では叩かれる弦の数が3本から2本に減り、低音域でも片方の弦がハンマーの端で叩かれるので音量が低下する。
弦はミュージックワイヤーと呼ばれる特殊な鋼線で、低音域では質量を増すために銅線を巻きつけてある。
弦長は、一般に長いほうが豊かな音色になる(その分張力を増さねばならない)といわれ、限られた寸法の中で最長の弦長を確保するために、弦を2つのグループに分け、各グループ内の弦は同一平面上に張られるが、段差を持った2枚の平面が角度を持って交差するようになっていることが多い(オーバー・ストリンギング)。
弦はフレームに植えられたチューニングピンで張られるが、1本あたりの張力は70〜80kg重程度で、全弦の張力の合計は20トン重にも及ぶ。
ピアノが現在の音量を出せるようになったのは、この張力に耐える鋼製のミュージックワイヤーと鉄製のフレーム(現在は一体の鋳物)が使われるようになってからである。

響板・大屋根(反響板)

響板・大屋根(反響板)

響板・響棒は弦の下に位置し、ブリッジを通じて伝えられた弦の振動を増幅し、響かせる。
響板は柾目に木取りされておりその方向はブリッジの長さ方向に一致させるのが一般的である。
響棒は響板のブリッジに対して反対面に位置し、やはり柾目に木取りされている。
響棒は響板木目方向に対して、つまりブリッジの長さ方向に対しても交差する方向に配置される。
響板を支える骨組みの役目を果たすが、響板・響棒材を伝わる音は木目方向と木目横断方向ではおよそ4:1となるために、響板の柾目横断方向への振動の伝搬を助け、響板全体に振動が均質に伝わるように工夫されてもいる。
ピアノの音は弦からの直接の音だけではなく、響板の鳴る音である。
グランドピアノでは弦を覆う上蓋(大屋根)がついており、これを持ち上げることによってより豊かな音量を出すことが出来る。
これは支え棒によって斜め約45度に固定される。
これにより音が指向性を帯びる。
演奏者から見て右側が開くため、演奏会場では客席に向かって音を発するように、客席から向かって左側に鍵盤が置かれる。
大屋根を半開にすることもでき、伴奏ではこの状態が好まれる。
アップライトピアノも上部の蓋を開けることができ、これによって若干の音量調節は可能になるものの、グランドピアノほど効果的ではない。
むしろほこりが入るので開ける事はあまり好まれない。

ペダル

一般にピアノは、2本ないし3本のペダルを備える。
第1のペダルは、いちばん右の長音ペダルであり、ダンパーペダルと呼ばれる。
このペダルを踏むと、すべてのダンパーが離れ、打鍵した音が伸びる。
また演奏した弦だけでなくそれらの部分音成分に近い振動数を持つ弦が共鳴することで、ペダルを踏まずに同じ弦を弾きっぱなしで延ばした時よりも音響が豊かに聴こえる。
ペダルを放すとダンパーが戻り、伸びていた音は止まる。
またペダルの踏み込み具合を半分などに調節することで、音の反響具合を調節することも出来、これをハーフペダルと呼ぶ。
さらに熟練した奏者は、このハーフペダルと完全に踏み込んだ状態とを往復させることによって、反響の具合を周期的に変化させ、ヴィブラートに似た音響効果を得ることも可能である。
武満徹の「雨の樹素描」では楽譜上にこれらの踏み込み具合の指定がある。
このペダルを踏み込んでいるときの弦の共鳴は周囲の反響も拾うので、合唱曲の伴奏などでは声楽部分がピアノの中で共鳴している現象も聞き取れることがある。
ピアノを一切発音せず、ペダルの踏み込み具合や鍵盤を無音で押し込むことによって他の楽器を共鳴させる手段もある。
例えばルチアーノ・ベリオの「セクエンツァX」(トランペットと共鳴ピアノのための)ではトランペット奏者がピアノの内部に向かってトランペットを吹き、その反響を聞き取る場面がある。
第2のペダルは、いちばん左の弱音ペダルであり、ソフトペダル、もしくはシフトペダルと呼ばれる。
グランド・ピアノでは、このペダルを踏むと鍵盤が少し右にずれ、弦の叩く本数、もしくは位置が変わり、音色が変化する(ウナ・コルダ)。
アップライト・ピアノでは、ハンマーの待機位置が弦に近づく(打弦距離が短くなる)ことで、音量が小さくなる。
元々ハンマーは弦の手前203mmで鍵盤からの動きを遮断(レット・オフ)され、自由運動で打弦するが、きわめて弱い音を速い動きで繰り返す場合には、ハンマーが弦を打たないミス・タッチとなる。
そこでソフトペダルを使用して打弦距離を幾らか短くすることで、弱く弾いた場合でもミス・タッチを起こしにくくする効果がある。
つまりアップライト・ピアノのソフトペダルは、他のペダルのようにペダルを踏むことによって何かしらの効果を得るものではなく、演奏の補助的な役割を果たすペダルといえる。
第3のペダルは、中央のペダルである。
かつてはエラールなど多くのメーカーによって省略されていた。
グランド・ピアノでは、ソステヌートペダルと呼ばれ、このペダルを踏んでいたときに押していた鍵のダンパーが、鍵から手を放してもペダルを踏んでいる間は降りないようになっている。
主に低音の弦を伸ばしたまま高音部を両手でスタッカートで弾いたり、あるいは高音部のみダンパーペダルを複数回踏み変える奏法に際して用いられる。
前者はシェーンベルクの「3つのピアノ曲」(作曲者自身はこの指定をしていないが、ピアニストによってこの選択を取るものが多い)、サミュエル・バーバーの『ピアノソナタ』終楽章のフーガなど、後者はドビュッシーのピアノ曲集「映像」第2曲「ラモーを讃えて」や、武満徹の「閉じた眼」「雨の樹素描」などの作品で効果的に使われる。
また低音の鍵盤を無音で押さえたままソステヌートペダルを踏んで「押しっぱなし」の状態にし、高音部の鍵盤をダンパーペダルなしで(多くの場合スタッカートで)弾く事により、低音で押さえられた音の部分音の振動数に対応する音が部分音の共鳴によって若干の残響を伴って聞こえる。
多くの現代音楽で使われている奏法である。
アップライトピアノでは、弱音(器)ペダルとも呼ばれ、夜間練習などのために、弦とハンマーの間にフェルトを挟んで、音を弱くする。
もともとのこのペダル効果はハンマークラヴィーアなどでハンマーと弦の間に薄い皮や羊皮紙などを挟み、音色の変化を愉しんだことによる。
弱音ペダルは通常、踏み込んだペダルを左右いずれかにずらすことでロックされ、踏みっぱなしにしておくことができる。
ペダル・ピアノ歴史的楽器では4つないし5つのペダルを持つものもあり、このうちのいくつかはシンバルや太鼓といった打楽器に連動されていた。
シューベルトの一部の作品では、これらの打楽器に連動するペダル構造を用いた曲もある。
現代でもファツィオリ社のグランドピアノでは第4のペダルを備えるものがある。
このペダルを踏むことにより、鍵盤の前面が下がり、鍵盤の沈む深さが浅くなる。
現代のピアノが沈む深さは平均して約1cmであるが、モーツァルトが活躍した時代の鍵盤が沈む深さは約6mmであり、操作は現代よりも遥かに軽やかであった。
この時代のような鍵盤の軽やかさを現代のピアノに持たせるために第4のペダルが備えられたものである。
ブリュートナー社は最近「ハーモニックペダル」の特許をとり、どのグランドピアノにも接続することができる第5ペダルといえるペダルを開発した。
すでに新製品に組み込んだメーカーも出現している。
またオルガンと同様に足鍵盤を備えた楽器(ペダルピアノ)も存在した。
シューマン、シャルル=ヴァランタン・アルカンらにペダルピアノのための作品がいくつかある。

ペダル

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